忍路のパン屋、Aigues Vives

歯と歯茎の強さには人一倍の自恃があったのですが、このパンの前でそれはもろくも崩れ落ちました。
ナイフや包丁ではかすり傷ほどしか与えることができず、手で毟ろうとすれば爪が剥がれそうになり、直接かじってみればあちこちから血がにじむ始末。
ベビーサンダーかジグソーが必要かもしれないと、ホーマックへ行くことを考えたほどに、固い、いや堅い、いやいや硬いパンでした。

Aigues Vives のパン

そして思ったのです。
これは、野生のパンだと。

強力粉と水、それに塩、砂糖だけの真っ白でシンプルなパンというのは、やはり貴族のパンなんだと、思う。
どこででも手に入る精製された強力粉の白さに、ぼくはパック詰めされたスーパーの肉を思う。
否定しているわけでもなければ、戦いを挑んでるわけでもない。
ただそのイメージが浮かぶだけだ。

それにひきかえこのパンはどうだ。
血や肉のにおいというと語弊があるが、生き物のにおいがあるのだ。
この形のまま、さっきまで大地を駆け回っていたんだ仕留めるのに苦労したよと言われても、ぼくはそれを疑わないだろう。
あるいは、つい今しがた山から掘り起こしてきたばかりなんだ今年はいい具合に育ったよと説明されても、ぼくはそれを信じるかもしれない。
それほどまでに、命のにおいがぷんぷんするパンなのだ。

Aigues Vives のパン

ただ不思議なことに、こういうパンを求めるためには、貴族のようなとまでは言わないが、金銭的な豊かさが必要らしい。
強力粉だけの真っ白でシンプルな貴族のパンのほうが、どういうわけかよほど容易に手に入る。

だからぼくは、なんとしてもこんなパンを、自分で作りたいと思うのだ。
真っ白じゃない、いろんな混じりものが残っている粉を使ってパンを焼く。
たぶん、本当ならそのほうが、ずっとシンプルなはずだと、ぼくは考えている。

1件のフィードバック

  1. そういう時は暖かいコーンスープに浸けて食べると良いかもしれませんよ。

    お互い老化は始まっていますからあまり無理をしないように(ニコ

  2. 連続で失礼します。

    思わず笑ってしまいました。
    エグヴィヴのパン、たしかに、確かに硬いですね!
    でも、好きです。このパン。

    野生という言葉がピッタリかもしれませんね。
    荒々しい岩肌を登り切る(口の中に入れる)と
    すばらしい展望(素敵な香りと味)を
    見せてくれる山のようです。
    時に厳しい表情をみせますが(歯と歯茎に)
    登り切った満足感(おなかは満腹に)や
    ほどよい疲労感(顎まで強靭に!)には
    その懐の深さを感じずにはいられません!

    少々悪ノリしてしましました^^;

    どうか実現できる日が早く来ますように。

  3. to バオヤッキーさん

    そっか老化か!
    ふだんはそんなこと考えもしませんでしたが、老化は歯から始まるとも言いますもんね。

    8020運動?フンッ。
    ぼくは8032をめざすよ、ってなくらいに自信過剰だったこれまでのことを深く反省いたします。
    というか、20や32よりも、80の方が難しいよなと最近思い始めました・・・。

  4. あ~ん!こういうのが食べたかったのです?
    いろんな穀類がごろごろ入った堅いやつ。

    でも、おしょろは遠いなぁ。。。
    やはりこれは、
    hamayoさんにうちまで遠征していただくしか
    他に方法が。。。(とべろ出す)。

  5. あぁそうだ。忘れるとこでした。
    のどちんこのご心配まで、ありがとうございます。
    引き続き真っ赤ですが、養生します。

  6. to ひょっこりさん

    えぇ、あのクラストはやはり、硬いと表すのが適当かと思います。
    モース硬度計の、「硬」です。
    食べた後の顎の疲労感は、なるほど何かを達成したときのそれと同質のものを感じます。

    ここのパンのクラストは、硬いだけでなくとても薄いんですよね。
    これはそうそう簡単にはマネできません。
    あの釜、使ってみたいなぁ。

  7. to shioshioさん

    口の中から拳でパンチされてるような獰猛なパンですが、shioshioさんなら手なずけることができそうな、そんな気がします。

    おっと、、遠征(やはりな)。
    次の北前船が入港したときにはぜひ。
    それまでにはなんとかあちこち鍛えておきますから、shioshioさんものどちんこの方を治しておいて下さいませ。
    でも最近見かけないなぁ北前船。
    100年くらい。

  8. 実は、とある国のとある街で
    週に4日ほどオーガニックマーケットが開催されます。
    そこでは河の上流の雪深い土地に住む民が、
    おやさいだのくだものだのチーズだのソーセージだのピクルスだの、
    といった品々を作っては持ち寄り、売るのです。

    その中に、ものすごくかたいパンを売る店がありました。
    ワタシはハラペニョとコーン(チーズもいたかも)のやつと
    ドライフルーツにウォールナッツがごろごろ入ったやつが特にお気に入りで、
    (一人暮らしなものですから)「ハーフで」と言って、はんぶんこずつ買うのです。

    それを持ち帰って、のこぎりみたいなナイフでがしがしとスライスして、
    暖めておいたオーブンですこしだけ、炙ります。
    ちょっとほんわかしたところで、バタをくるくるして、食べます。

    それは多分、移民がやって来て以来変らぬ製法で作られた、
    するめのように噛めば噛むほど味が出る、滋味溢れるパンなのでした。

    そんな日々のことを思い出しながら、
    北前船なんてかたいこと言わずに
    苫小牧あたりからさっさと船に乗っていらっしゃいよ!
    と思ったりするのでした。

    美味しいパンを食べに帰りたいなぁ。。。

  9. shioshioさんのとは少し違うけど、サワーのきいた酸っぱいにおいのライ麦パンを食べると、ぼくも昔のことを思い出したりします。

    1リットルの牛乳パックほどの大きさのパンなのに、1リットルの牛乳パックと同じかそれ以上の質量があって、常にバックパックの中の邪魔もの扱いでした。

    すっぱいにおいは、牛が食うサイレージ(サイロで発酵させた牧草)を思い起こさせて、それがまた連鎖的に北海道の風景を思い出させて、なんだか泣けてきたものです。

    それはルーブロという名前で売られていて、ドイツのプンパニッケルをもっとヘビーメタリックにした感じの、いわゆる黒パンです。
    帰ってきてから日本で同じパンを探したけれど、どこにもありませんでした。
    いま探すとあるのかもしれないな。

  10. ながなが&たびたびごめんなさい。

    多分それ、食べたことがあります。
    穀類がつぶつぶしてるやつでしょ?
    ちょっとすっぱくてダークなやつ。
    折るとぼろってなるやつ。
    おさかなとかおやさいのマリネとかパテ乗っけたり、
    北欧あたりだと海老とかとチーズのチューブ入りのヤツ(だいすき☆)
    乗っけて食べたりするんですよね~。
    あぁたべたい。。。

    じゃ、それもひとつよろしく♪

  11.  > 穀類がつぶつぶしてるやつでしょ?

    そう!

     > ちょっとすっぱくてダークなやつ

    そうそう!

     > おさかなとかおやさいのマリネとか
     > パテ乗っけたり、北欧あたりだと
     > 海老とかとチーズのチューブ入りの
     > ヤツ(だいすき☆)乗っけて食べたり

    まさしく!

    ねり歯磨きみたいなチューブに入った、チーズとかサラミとかコンビーフとか、あれサイコーだね。
    ぜったい山向きだと思う。

    ただね、くる日もくる日もあんな感じの料理ばっかりなんですよ。
    ホテルだろうがカフェだろうが、あればっかり。
    スーパーで買ってきて自分で作っても同じなのよね。
    てかその方がおいしい。

    それもよろしくって、、、売ってないよ。
    むしろ持ってきて。

  12. ほんっと独占気味で申し訳ないんですけど(^^;。。。
    売ってないから、テクニシャンなhamayoさん作って?ってハナシですやん。

    ワタシはビンボーだったのでホテルには泊まれず、
    主にYHで自炊だったのですけど、
    スーパーで練り歯磨き粉的アレとか
    エイトオストとかグブランスダルスオストてヤギ(&牛ミックス)のチーズとスライサーとか買って、
    毎日サンドウィッチとコーラ(あとは泡で満たす的な・・・)
    で過ごしてました@北欧。懐かしい。。。

  13. やだなー、ぼくもYHがほとんどですよ。
    YHか、YHより安いホテル。
    YHも安ホテルもないところは野宿ですがな。

    乳製品の種類の多さには仰天したものです。
    牛乳だと思って買ったらヨーグルトともチーズともつかない、だけど白い何か、みたいなのはしょっちゅうで。

    うむ。
    ハラは常にすかせてましたなあのときは。
    でもじょじょに他人におごってもらうことを覚えて・・・、というかハラペコ光線が出てたんだろうな。

    あ、ルーブロはクマのやつに作らせますんで。

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